シネマッドカフェ

2013年7月の過去の記事

映画「風立ちぬ」雑感

アニメに限らず心に残る映画の定義を常々映画好きな仲間にこう嘯いておりました。物語と音楽それに美術が三位一体となって素晴らしい映画が生まれるのだと。私の十代の頃に思っていた事は今も変わりません。宮崎駿監督の新作「風立ちぬ」はまさに三つの要素が完璧なまでに兼ね揃えた映画でした。

映画は太平洋戦争で活躍した、日本が生んだ名機「ゼロ戦」こと零式艦上戦闘機の生みの親、堀越二郎を堀辰雄の「風立ちぬ」の主人公に置き換え、ゼロ戦を製作してゆく過程と、はかなくもせつない恋物語を取り入れながら話は進みます。中でも堀越二郎と菜穂子の運命的な再会によって結ばれる場面は秀逸。この二人の明日を夢見て、今をしっかりと生きる姿の何と潔いことか、この二人の描き方はとても素晴らしい。音楽は久石譲氏。全編に流れる音楽はN・ピオバーニよりも壮大に、M・ジャールよりも勇壮に、時に楽しく、時に明るく、この映画に風格を与えております。氏の音楽はどのようにして生まれるのか不思議でなりません。この西洋的な感覚はすごいです。そして美術。日本の原風景を見るようです。あまりにも美しい。この映画は堀越二郎のドラマですが、もう一方で忘れてならないのが堀辰雄の存在です。彼もまた結核によって48歳の若さで逝きます。宮崎監督は堀辰雄の「風立ちぬ」を愛し、堀辰雄に対しても敬慕の念を抱いていた事でしょう。「生きねば」という言葉が宮崎監督の心にどれほどまでに響いたか、想像できません。S・スピルバーグ監督の「太陽の帝国」という映画がありましたが、舞台の上海が日本軍の急襲により群衆がパニックになる場面で、主人公の少年は手にしていたゼロ戦のモデルキットを落としてしまい、それに気を取られている間に母親と離れ離れになってしまうという場面を思い出しました。主人公もゼロ戦に憧れるイギリスの少年でした。この少年と宮崎監督がだぶって見えたのは宮崎監督の飛行機への純真無垢な心と同一のものだったからでしょう。今私は夢を語る年齢ではなくなってしまいましたが、少年だったころの自分に還り、大いに夢を見ることは自由な事です。映画「風立ちぬ」は夢を見る事が出来なくなった時代に、もう一度夢を見る事を教えてくれる映画だと思いました。

映画をご覧になったらシネマッドカフェへお立ち寄りください、美味しいコーヒーを召し上がりながら、大切な方と映画を語ってみてはいかがですか。ご来店をお待ち致しております。

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